お店を経営しているといろんな波に遭遇します。お店が暇になってくると、抑えたくなるのが人件費。ただ、それは本当に有効な手でしょうか?私は徹底した現場主義のコンサルティングをモットーにしていますが、その理由は、経営の問題点は必ず現場に解決のヒントがあるからです。

 

以前こんなことがありました。

スーパー銭湯に入っているチェーン店のマッサージ屋さん。年末の忙しい時期なのにスタッフが一人しか居ません。マッサージを受けながら聞いてみると、売上が良くないので人を入れてもらえず、ずっと一人で受付・施術の合間に電話予約の対応をしているとのこと。休憩もろくに取れず、応対で施術が何度も中断するのでお客様からクレームを受けることもあり、本当にキツイと愚痴っていました。

確かに私も30分のマッサージの間に、何度か電話の対応で中断しましたし、場所柄、お風呂上がりのお客様がふらっと立ち寄って受付から呼びかけるので、とても落ち着いてマッサージを受ける雰囲気ではありませんでした。腕は悪くなかったのですが、特に料金が安い訳でもなく、もう行かないでしょう。

 

暇で本当に人が要らない場合ももちろんあります。でもこのお店は、ライバル店がたくさんあるような街中の立地ではなく、スーパー銭湯で本来ならある程度の集客は見込めます。そのためには適切なサービスの提供が必要。スーパー銭湯はリラックスするために行く施設ですよね。例え赤字でも最低限もう一人スタッフを入れてお客様がゆっくり癒しの時間を過ごせるようにする方が得策です。

スタッフに余裕がないとホスピタリティも悪くなります。交代でしっかり休憩ができ、何かあれば本部がきちんとバックアップしてくれるという安心して働ける環境を整えることも大切。人件費を減らすよりも、客層にあったサービス内容や有効なキャンペーンなど他にやるべきことがたくさんあるなと感じた体験でした。

 

これらは飲食店でも全く同じです。

スタッフが少なくて長時間待たされたり、雑な盛り付けの皿を出されたりすればそのお店にはもう行かないですよね。人を減らしてサービスが悪くなり更に客が減るという悪循環は、赤字店でよくみる状態です。経営者の方、現場を知らずに数字だけを見て判断するのはやめてください。なぜお店が暇なのか、もしくは多忙なのに利益が上がらないのか、スタッフに聞いてみてください。数字だけで安易に戦略を練るより定期的にお店を回り現場の状況を把握する方が赤字解消に有効ですよ。

  

短絡的に人件費を抑えるデメリットはまだあります。それは人材確保と教育にかかるコスト。アルバイトでもパートでもみんな生活設計があり、シフトをあまりにも減らされると辞めてしまいます。収入が厳しいのでWワークをするスタッフも増えるでしょう。そうするといざ人員が必要な時にもシフトに入ってくれる人材がいなくなります。初期投資の投稿でも少し書きましたが、人材の確保には想像以上のコストと日数が要ります。面接や教育にかかる時間と労力もコストのうち。目先の人件費を優先した結果、実は失うものの方が大きかったということは多いのです。

 

経営者の中にはスタッフを“雇っている”という認識の方がいらっしゃいますが、“働いてもらっている”と意識を変えてください。スタッフがいないとお店はまわらないのですから。スタッフは財産です。

お店が暇な時期は、ぜひスタッフとのコミュニケーションやスキルアップに時間を使ってください。上下の別なく人間関係がうまくいっているお店は明るい雰囲気で居心地が良くお客様は敏感にそれを感じ取ります。出身地や趣味など色々話す中でその人となりや意外な一面を知れたりすると単に仲良くなるだけでなく、適材適所でより合った役割を与えられたり、スタッフの特技を生かした新しいサービスを作れたり等、お店にとってポジティブな影響がたくさんあります。

お客様がいる時にはなかなか教えられない事をレクチャーしたり、例えばExcelが使えるスタッフに事務作業の一部を任せる、絵が得意なスタッフにPOPやメニュー表をお願いする、など個人個人にあったスキルアップも、時間がある時にしかできません。そう考えると暇な時期もとても有効だと思えてきませんか?まあもちろん常に忙しいお店であるのが一番ですが!

  

そうそう別の角度からも経営者の方にとってスタッフとコミュニケーションを深める利点があります。経営者とはその組織のトップ。批判や忠告をされる機会はほとんどなくなります。歳を重ねる毎により頑固に、自分の意見が通る=自分は正しい、という意識になりがち。でもどれほど優秀な方でも人間ですから、間違うことや、考えが時代遅れになっている場合もあります。若いスタッフや社員と自由にコミュニケーションできる環境に身を置くことは、たくさんの気づきにあふれた、経営者にとっての成長環境にいるのと同じことなんですよ。

 

未だ飲食業界にとって厳しい情勢ですが、“スタッフは財産”この言葉を念頭に置いて、ぜひ長期的な視野でお店を運営していってください。